2015年03月5日 滞在者紹介
Photographed by Tomoyuki Kishino
黒田 大祐リポート
天神山は小さい山です。そして静かな所です。制作や思索には適した場所で、ここでレジデンス出来た事は非常に幸運であり、言葉にはできない大きなものを得たと思っています。私は、天神山の麓の回転寿司屋で北海道の奥深さを感じましたが、天神山アートスタジオは、そこで出る寿司の印象に似て、小さい山の上に大きいネタがのっている(小さいシャリに大きなネタ)。例えていえばそんな感じの、とても良い施設です。おそらく、多くのアーティストにとって居心地のいい環境であり、新鮮な感覚を得られる場所だと思います。
私が参加したのは、国際公募のレジデンスだったこともあり、スペインとマレーシアのアーティストと一緒になりました。もともと滞在していたイギリスのアーティストも含めて、みんなで食事する機会が何度かありました。私は調子に乗って、彼らに3つの重要な日本の詩を伝えました。「酒はのんでものまれるな」「咳をしてもひとり」「さよならだけが人生さ」。ほとんど冗談で伝えたこの3つの詩は、しかし、レジデンスの束の間の出会いを象徴するように、合い言葉の様に飛び交い、また、私の心の中で、いまだ響いています。
レジデンスに参加して、何を得たかはわかりません。もちろん、作品は造ったし、多くのインスピレーションを受けました。けれど、それだけではない何かを得ました。それは出会いかもしれないし、ツルツルに凍ったアスファルトの上で転けて初めてわかるような感覚かもしれません。ともかく、レジデンスプログラムは素晴らしいものでした。私は、そこで何を得たのか確かめる為に、もう一度、天神山に行かなければならないと思っています。
和訳:齊藤ふみ
<黒田大祐 – Daisuke Kuroda>
1982年、京都府生まれ。広島在住。広島市立大学大学院卒業。橋本平八「石に就て」の研究で博士号取得。主な個展「ばんじいしころ」(旧日本銀行広島支店、広島、2014)、主なグループ展に「対島アートファンタジア2014」(厳原町周辺、長崎、2014)、 横浜トリエンナーレ2014連携企画「東アジアの夢」(BankART1929、横浜、2014)。
※国際公募で選ばれた3名のアーティストのうち、来日予定であったPei-Ju Yehが本人の事情により不参加となったため、急遽次点の黒田大祐氏が参加となりました。
<ゲスト・コーディネーター齊藤ふみのコメント>
日本在住ながら初めて北海道にやってきた黒田は、資料やフィールドワークに加えて、札幌に住む人々にインタビューを行いました。雪にインタビューする/雪になってインタビューに答える作品『雪にきく』と『雪の語り』では、何も語らない雪を中心にインタビューが繰り広げられます。『札幌の風景』では、吐息で蝦夷松と林檎の木が描かれ、儚く消えていく様子が映し出されます。
人間と雪、フィクションとノンフィクションなど、人口(Artificial)/自然(Natural)というテーマがユーモラスに描かれました。
<Comment from guest coordinator Fumi Saito>
Japan based Kuroda visited Hokkaido for the first time. He interviewed people living in Sapporo as well as doing research and fieldwork. Kuroda developed a work in which he interviewed snow, titled “Asking the Snow of Sapporo Video( 15min ) 2015”, and a work in which local residents became snow and interview responses, titled “The Snow of Sapporo Speaks Snow, audio 2015” . A series of interviews were carried out with snow, which is usually silent. In the work “Landscape (Sapporo)”, he made drawings of yeddo spruce and apple trees by breathing air over a cut out sheet placed on a cold window.
‘Humans and snow’ and ‘fiction and nonficton’. Themes of the artificial and nature expressed through humour.
Translated by &MOON
2015年03月5日 滞在者紹介
Weng Nam Yap’s Report
I enjoyed a lot. This is my first residence program, everything to me is kind of fresh experience because my profession is a graphic designer, usually I work under a brief or solving problems from client, and somehow this residence program provides me a chance and space to have fun with the project, and somehow actually I am here without knowing too much about the art residence and Sapporo, so I am here without stress and enjoy the time creating something freely. People here are nice, and got great help from them for making the work happened, also enjoyed their prepared program like talks, workshops, little trips at Sapporo, and meeting different artists.
Sapporo is actually ‘sexy’ to me, I like the fact that the nature is close to the city, the mountain, the sea, and the snow has somehow beautifully made up Sapporo or Hokkaido an attractive image to me. But sometimes can be too cold for people like me from a warm country. And Tenjinyama to me is a good place for artists who need a silent place for research and art projects, I can focus very much here and surrounded by the green (but now covered by snow).
I experience more about snow, at least a bit serious, even though I have experienced it previously. The theme of the residence program, the environment, and the workshops make me think more about the snow, because people here has a real deal with snow in Sapporo. The residency is a bit short, there is some challenge, but I am happy to see the work finished at some point and exhibited at the end, at the same time it’s interesting to see how other artists create their work, it can be progressive too sometimes especially in a short period, I noticed.
Photographed by Tomoyuki Kishino
初めてのレジデンス・プログラムへの参加でしたが、とても楽しかったです。すべての事が新鮮でした。僕はグラフィック・デザイナーでもあるので、普段はクライアントがいて課題を解決することが仕事です。しかしこのレジデンス・プログラムはプロジェクトを楽しむ機会と場所を与えてくれて、さらに言うと僕はアート・レジデンスや札幌のことをそんなに調べずにやってきて、つまりは何のストレスもなく、何かをただ自由に作る時間を満喫しました。天神山の人々は素晴らしくて、作品制作に多大な協力をして頂きました。また、期間中に彼らが企画したトークイベントやワークショップ、そして小旅行も楽しかったし、他のアーティストと出会えたことも良い経験でした。
札幌は、僕にとっては「セクシー」な街です。自然が街に近いこと。山、海、雪が、札幌と北海道を魅力的なイメージにしています。僕のように暖かい国から来た人間にとっては、ときどき寒すぎますが・・・。天神山はリサーチやプロジェクトのために静かな環境が必要なアーティストにとってぴったりの場所です。緑に囲まれながら(今は雪で覆われていますが)僕はここでとても集中できました。
雪については、すでに経験したことがありましたが、今回はちょっと危険なくらいの経験をしたと思います。雪は今回のレジデンス・プログラムのテーマでもあったし、この環境や、雪に関するワークショップなどから、いろいろ考えさせられました。札幌の人々は、雪の問題と向き合っている。
滞在は少し短かくて、多少の困難もありましたが、ある時点での作品の状態を最終的に展示として発表できたことに満足しています。また、他のアーティストたちの制作過程を見ることができたのも興味深かったです。たとえ時間が短くてもできることはあるんだと、気がつきました。
和訳:齊藤ふみ
<Weng Nam Yap – ウェンナム・ヤップ>
1986年、クアラルンプール(マレーシア)生まれ。グラフィックデザイナー/メディアアーティスト。日常よく目にするモノや状況に新たな視点を与え、問い続けるような作品を制作している。 ゴグボット・フェスティバル・ヤングブラッド・アワード(2012)、ヨーロッパ・デザイン・アワード(2014)入賞。イタリア、スイス、台湾など、数多くのフェスティバルに招待されるなど、その才能は国際的に評価されている。
http://wengnamyap.com/
<ゲスト・コーディネーター齊藤ふみのコメント>
天神山に到着したアーティストは、「札幌の音」を聞こうとリサーチを始めます。つららから落ちる水の音、靴底で雪が軋む音、白い雪の夜の静けさ。また、札幌の人々がいかに雪と暮らしているかも学びます。年間およそ5mの積雪があるため、常に除雪・排雪の問題を抱えていること。そんな面倒な雪を、たいていの大人は厄介だと思っているが、子どもは雪が大好きなこと。
雪は空からやってきて私たちの目の前にひとときとどまり、この様々な問題をすべて溶かすようにして、最後には流れていきます。雪の降らない土地からやってきて同じくひとときこの地に滞在したアーティストは、ユーモラスに、また繊細に、雪との対話の断片を私たちに聞かせてくれました。
<Comment from guest coordinator Fumi Saito>
The artist started his research by trying to “listen to the sound of Sapporo”. Sounds of a water drop from an icicle, shoe soles stepping in the snow and the quietness of a white snowy night.
He also learned how people in Sapporo live with the snow. For example, snow builds up about five meters throughout the year and there are problems removing it. Most adults find the snow problematic yet the children love it.
Snow falls and is visible to us for a short time but drifts away in the end as if problems are melting away. The artist who comes from a country where snow never falls, shared fragments of his conversations with snow with humour and sensitivity.
Translated by &MOON
2015年03月5日 滞在者紹介
Helí García’s Report
I will always remember those strange days I spent trying to make “the biggest snowball ever” with the help of Japanese people. Based on the idea of overcoming the snow by means of the play, my proposal was a process-based project as a reflection on nature, human being and art. The process was fun, frustrating, moving, hard, painful, inspiring, lonely, social and exciting at once.
My project needed interaction with people and I must confess that when I arrived was a little bit surprised by the location of the builtding, a little bit isolated in the neighbourhood. However, after some days I realized there were actually people ready to go up to the centre quite often, thanks to scheduled talks and workshops
Sincerely, I could not comment any negative aspect of my stay in Tenjinyama Art Studio. Facilities, staff and services seem just perfect to me. I believe this experience will have a huge influence on my next work as an artist. However, I am sure the most important present I have taken home is the chance to meet people there. The ones who run the Studio and the Program invite resident artists and local people to join a friendly, generous, collaborative, free and hard-working atmosphere. This is what makes Tenjinyama Art Studio an excellent place to research, create and evolve.
この先ずっと、あの奇妙な日々を思い出すと思います。私が”The biggest snowball ever”(史上最大の雪玉)を日本のみんなに手伝ってもらいながら作ろうとした日々。雪で遊ぶことで雪を乗り越える、というアイデアをベースにした私の提案は、自然と人間とアートについて反映させた、プロセス(過程)に重きを置いたプロジェクトでした。その過程は、面白くて、イライラして、感動的で、大変で、痛くて、ハッとしたり、孤独で、社会的で、そしてエキサイティングでした。
私のプロジェクトは人との関わりが必要でしたが、正直に言うと、近隣から孤立した天神山の環境に、到着した時は少し驚きました。しかし数日経つと、トークイベントやワークショップのおかげで人々が頻繁にやってくることが分かりました。
心から言いますが、天神山アートスタジオの滞在について、一切ネガティブなコメントが浮かびません。施設、スタッフ、その他の配慮がただただ自分にとって最高でした。この経験は必ず、アーティストとしての自分の次の作品に大きな影響を与えると思います。しかし私が家に持ち帰った1番のプレゼントは、確実に、あの場所にいる人たちに会えたことです。スタジオとプログラムを運営するスタッフたちは、アーティストと地域の人たちを、居心地がよくて、寛容で、協同的で、自由で、そして熱心な雰囲気の中に招き入れています。
これこそが、天神山アートスタジオがリサーチ・制作・展開のための素晴らしい場所である所以だと思います。
和訳:齊藤ふみ
<Helí García ‐ ヘリー・ガルシア>
1983、グラナダ(スペイン)生まれ。グラナダ大学およびポズナン美術大学(ポーランド)卒業後、作家として制作を始める。 絵画を中心に、その他の表現領域にも一貫した芸術姿勢で取り組む。素材に直接手を加えて生まれる作品は、パーソナルかつグローバルな両面を持ち、そこから表現者としての個人と社会や自然との関わりが浮かび上がる。
http://heligarcia.es/
<ゲスト・コーディネーター齊藤ふみのコメント>
今回の滞在では、“Overcome snow”(雪を乗り越える)をテーマにプロジェクトを実施。雪に打ち勝つ最良の方法は、それを楽しみに変えてしまうこと、つまり「雪で遊ぶこと」。世界記録に迫る巨大な雪玉を作ることで「雪で遊ぶこと」を実践しようと試みました。
日本を初めて訪れたアーティストには、想像以上の驚きや発見がたくさんあったようです。日本の人々の顔が似たように見えることもそのひとつでした。彼はそこから着想を得て2人の男女の顔を繰り返し描きました。
また、予想外の出来事も多くありました。札幌の雪は湿度が低くさらさらで、思うように雪玉を作ることができません。いろいろな人にアイデアを聞き、物理的にも助けてもらいながら雪玉作りに挑みます。キリスト教の聖書によると神は7日間をかけて地球を創ったそうですが、彼も同じく丸い雪玉を7日で作り上げました(正確に言うと、大きくなった雪玉は7日目で転がせなくなりました)。
来日前から滞在制作のこの過程を、ペインティングや映像などを用いて、天神山のギャラリースペースにインスタレーションとして展示しました。
<Comment from guest coordinator Fumi Saito>
Garcia developed a project on the theme of “Overcome snow”. The best way to overcome snow is to make it fun, or in other words to “play with snow”. He put the “play with snow” idea into practice by trying to make the world’s biggest snowball.
Visiting Japan for the first time, the artist encountered many surprises and new discoveries. The similarity to the artist ofJapanese faces was one of these surprises. Garcia gained inspiration from this experience and repeatedly drew the faces of acouple.
Also, there were many events that were beyond his expectations. Due to the low humidity, Snow in Sapporo is dry and smooth and it is not easy to make a snowball. Garcia took on the challenge of making a snowball by getting help and advice from various people. According to the Bible, God created the earth in seven days. Garcia also made a round snow ball in seven days (However, the snow ball could not be rolled on the seventh day).
Garcia used painting and video to document the creation process of his project and these were shown at Tenjinyama Art studio as an installation work.