日中の気温14℃の札幌の家をでて北海道新千歳空港から4時間ちょっとで高雄国際空港へと向かい深夜に市内の窓のないシングルルームに着たどり着く。翌日に台湾の東海岸「台東地域」へ夜の道をシュールンのパートナー、キャムが運転する車で向かったのは5月19日のことだ。この車には、高雄で迎えてくれたシュールンと一人娘、今年から始めた交換プログラムの最初のアーティスト梅田哲也さんが同乗していた。約4時間のドライブだった。高雄から台湾駅までは台鉄の一番早い電車でも2時間半はかかる。
我々は都蘭(ドゥーラン)地区の地元家族が営む一泊500NTDの民宿に到着した。片言の日本語を話すおかあさんが出迎えてくれた。実際のところ、忙しさにかまけて情報収集をしなかったので前情報がほとんどなかったし、いろいろと面食らうこともあったけれど、プロジェクトについては梅田さんだから、ぜったいなんとかなるわと考えていた。結果は、50カ所以上蚊に食われ、20本以上のペットボトルのドリンクを買い、日焼け止めをまたたくまに洗い流す汗と、最後には慣れないエアコンの冷気でひどい風邪をひくという8日間だった。
そもそも台東を拠点にレジデンスを運営するアーティストのシュールン・ウーと出会ったのは、2017年度にコマンドNが開催したアーティスト自身のトランスフォーマティブな展開を目的としたMove Arts Japanレジデンスプログラムを通じてである。アーティストは国内複数箇所のAIR拠点をひと月半かけて回るという移動型のレジデンス・プログラムだ。このプログラムにより、シュールンはさっぽろ天神山アートスタジオに2週間滞在した。
台湾とコマンドNとの交流で選ばれて来日していたシュールンは、彼女自身が台湾原住民出身であり、大学時代からの研究フィールドであった台湾東海岸エリアに拠点を移し生活を始めたこと。台湾原住民について、台東エリアについてやレジデンス拠点の運営や、環境保護地区公園でのカフェの運営、生活する中でおこる様々な出来事、リゾート開発しようとしている政府に、やみくもにツーリスト向けのホテルを建設したりするありきたりな開発事業を行う代わりにアートフェスティバルをやらないかと交渉して実際にやることになったという話。聞いてしまって「台東にいきたい」と思った。
ほどなくして、シュールンから交換プログラムのオファーがあり、さっぽろ天神山アートスタジオから3名の招待アーティスト候補をTEC LAND ARTS FESTIVAL 2018に対して提出することになった。その結果、選ばれたのが梅田さんだった。
インターナショナル・アーティスト4名、台湾アーティスト8名が参加するアーティスト・イン・レジデンスプログラム、北海道からマレウレウも参加する満月の晩の音楽ライブ、開催地域にある工房やアートスペースで同時に開催されるオープンスタジオや、アートマーケットの開催といった多彩なフェスティバルの運営は、国の補助を得て地域で生活する人々が担っている。運営の中心メンバーはほとんどが女性であり、ハニーいわく超少人数の「ママ・チーム」で切り盛りしている。ミーティングもアーティストのリサーチのアテンドも当たり前のようにこども同伴だ。たいへんだろうけど、理想的じゃないか家族と生活があって、、とほんのちょっとさみしくなった笑。でもあまりにも蚊に襲われたり、あまりに暑かったり、あまりに会うひと会うひとがおだやかだったり、パーマカルチャーなひとが翌日の早朝に出発をひかえているのにあってくれたり、民宿のおかあさんが毎朝コーヒー作ってくれたり、ハニーや阿紀さんとバライ一家がいろんな場所に連れてってくれたり友達を紹介してくれたり、アーティストがひとつひとつにであっているのを眺めたり、猿が山の斜面をポップコーンめがけて走りおりたり、パイナップルの畑とか、塩気の薄いごはんとか、なりすぎのマンゴーとか、全身にタトゥーの入ったマオリのジョージとか、果物すきで真面目なダニエルとかそんな見慣れない風景といつもと違う時間の中にちゃぷちゃぷつかっている間に、いや、たぶん一瞬でどうでもいいことになっていった。帰国したいまは日本語を話す歳をとったひとと若いひとについて、またこのエリアに入ったキリスト教宣教師とそれを受け止めた土地の反応について、もっと知りたくなっている。
さて、本題です、梅田さんはなにをするのか。
ここで制作される作品について、やったことないからやってみたい、あのひとたちとやってみたいというポツポツとしたヒントはこぼれてくる。得意な受け身の本領発揮となるのだろう、また、数日間のリサーチに同行してみて、アーティストはほんとうによく「みている」、すごいひとだなと感心する。台東駅から車で40分くらい離れている都蘭地区から、山に向かってどんどん奥まですすんでいく見晴らしの山の中腹で作品を制作する。その場所は、7月15日からの豊年祭に向けてアミ族の少年たちが集まりトレーニングを行う山の家のそば。これまでの技術に加え、この「機会」、場所やひとにであって開発されるであろう新しい技術もみることができるだろう。
オープニングは6月29日(金)、会期中に台湾へ行くことができるひとは、ぜひみにいってほしい。
作品の場所_google map_月光小桟 / 女妖在説画芸廊 / 月光咖啡屋
台湾の東海岸には、日常を忘れさせてくれる楽園があるのじゃなく「生活」がある。だから、このフェスティバルにアーティスト・イン・レジデンスがフィットするのだろう。営みとはリアリティだ、そこにあらがわないで暮らすというのは、そのときそのときに正面からつきあってそのつど考えてはやってみるとかやめてみることの繰り返しなんじゃないだろうか。それだけのことだし、しまいまでそれができたらすごいなと思う。その過ごしかたはまるでこども時間でだからわけもなくにやけてくる。
思っていたよりはるかに遠かった台東、だけどまた行きたい。こんや札幌からみる満月はあの海の上でもぽっかりときれいにみえるのだろう。MO
【関連リンク/PDF資料】
○2018台湾東海岸大地芸術祭
TAIWAN EAST COAST (TEC) LAND ARTS FESTIVAL 2018
会期:2018年6月29日ー11月30日
○台湾東海岸エリアについて
https://www.eastcoast-nsa.gov.tw/ja-jp
○AIR招聘アーティスト(日本)梅田 哲也
○AIR招聘アーティスト(日本)菅野 麻衣子
http://2016.teclandart.tw/project/maikosuganojp/
○音楽祭の招聘アーティスト(日本)マレウレウ*6/30に出演
http://www.tonkori.com/profile/
○Move Arts Japanレジデンスプログラム
https://movearts.jp/air2017-ja
○さっぽろ天神山アートスタジオ
https://beigejackal76.sakura.ne.jp/
【問い合わせ先】
フェスティバルのこと、現地へのアクセスなどもう少し詳しいことが知りたいかたは
小田井 (さっぽろ天神山アートスタジオAIRディレクター)まで。
info [AT] beigejackal76.sakura.ne.jp
TEL 080-3234-0228(直通)