(審査員コメント)
今回、Exhibition Program の応募に対して202名の応募がありました。その中から一人のアーティストを選ぶのは本当に難しい作業でした。膨大な量の作品のファイルや応募の動機を見て、数日かかってなんとか30人ぐらいまで絞りましたが、そこからは正直、誰が選ばれてもいいと思えるレベルの高い人たちばかりでした。
その中で西松秀祐さんが選ばれたのは提出されたプランのユニークさもありますが、実際に天神山に滞在する中で、最初のプランをどんどん発展させたり、全然違う新しいプランを作ってくれそうな可能性にあふれた若い柔らかな感性を感じたからでした。そして西松さんの作品にはこの世界や未来に対する純真な興味や明るい希望を感じます。2月、レジデンスの最後の発表をとても楽しみにしています。(島袋道浩)
今回のコミュニティ・プログラムの公募には、「アーティスト・イン・スクール」(AIS)への参加を前提にした提案が求められていました。「アーティストは転校生!」として、学校の余裕教室などで制作と交流を行う滞在型のプログラムです。2003年から北海道を中心に全国で74件(札幌市内40件)もの事業を行って来ました。継続的な効果を求められるこの時代に、毎年のように学校にアーティストを派遣しているのはとても重要なことです。スタッフの皆さんの並々ならぬ熱意のたわものだと思います。現在は今までの成果をまとめたAIS報告書を準備していると聞きます。AIS事業を次のステップに進める段階なのだと感じています。私は小中学校と4回転校しました。新しい学校には子どもなりのサバイバルがあり、その都度「妥協」と「協調」を強いられた記憶があります。しかし、新しいイメージを創造するアートには、時にそれらは相反するモノになりかねません。
そこで、国際公募審査では、いくつかの観点に注目しました。学校を含む社会への積極的な交流姿勢、冬環境への丁寧なリサーチ、未知数を含めたプランの柔軟性。そして、過去のAIS事業には見られない作家性です。今回、54名の提案の中から、Mica Cabildoさんの作家性と提案に新しい可能性を感じ、彼女を選ばさせてもらいました。社会との関わりや冬の環境を考慮した彼女の思考は、AIS事業にも新しいイメージを見せてくれると確信しています。とても楽しみです。(磯崎道佳)
2014年度に国際公募を開始してから4回目となった今回は、コミュニティ54名とエキシビション202名の合計256名の応募の中から2名を選ぶこととなりました。審査方法は、応募書類全てを3名の審査員が精査した上で、応募者のこれまでの活動資料とプロジェクトプランの内容でファイナリストを選出。次にプロジェクトプラン内容と発展の可能性を検討、さらに天神山アートスタジオ国際公募プログラム選考基準にそって最終選考の議論を重ね、結果にたどり着きました。
国際公募の回数を重ねるごとに、応募者の活動拠点や出身が地球上のすべての大陸と地域に分散しておりこのプログラムの国際的な広がりを実感しています。また、応募者はこれからの活動が期待される新人から、中堅からシニアに差し掛かるレベルのアーティストまで幅広い層が挑戦してくれており、応募するアーティストの質が高まってきていることを実感します。そのぶん、選考に携わる私たちのプレッシャーも大きくなりますが、ひとりひとりの人生に向き合う作業であると感じ、厳しくも温かい気持ちになり私たちにとっては励みに変わります。選ばれた2名が、このプログラムの体験後にアーティストとしてどのように飛躍し、変わっていくのかを長く見守っていきたいと思っています。(小田井真美)
(審査員プロフィール)
島袋道浩 【SHIMABUKU】
美術家
1969年生まれ。12年間のベルリン滞在の後、現在は沖縄を拠点にする。1990年代初頭より世界中の多くの場所を旅しながら、そこに生きる人々や動物、風習や環境に関係したインスタレーションやパフォーマンス、ビデオ作品を制作している。パリのポンピドゥ・センター、ロンドンのヘイワード・ギャラリーなどでのグループ展やヴェネチア・ビエンナーレ(2003 / 2017)、サンパウロ・ビエンナーレ(2006)、ハバナ・ビエンナーレ(2015)、リヨン・ビエンナーレ(2017)などの国際展に数多く参加。2013年には金沢21世紀美術館、2014年にはスイスのクンストハーレ・ベルンで個展を開催。2014年札幌国際芸術祭参加作家。
磯崎 道佳 ISOZAKI Michiyoshi
美術家
1968年 茨城県水戸市生まれ。磯崎道佳は、様々な表現形態、素材を通じて、誰もが持つ好奇心を引き出すことで、新しい視点を発見する場を制作、発表している。1968年水戸市生まれ。1996年多摩美術大学大学院美術研究科修了。2001年P.S.1/MoMAインターナショナルスタジオプログラムに参加(NY)。現在北海道在住。主なプロジェクトに、面識のない者同士による手紙の交換を目的とした「パラシュートとマキオ」。参加者と巨大バルーンを制作する「ドーム/DOMEプロジェクト」。雑巾で等身大の動物を制作する「ぞうきんぞう/Zokin Zoプロジェクト」、「モップの生活/Life of Mop」 、「笑う机 – smile one the desk」など。
小田井 真美 ODAI Mami
1966年 広島市生まれ。オルタナティブスペース運営、国際展での滞在制作コーディネート、NPOでのAIR運営を経て、アートによる地域活性化事業、アーティスト・イン・スクールの企画と事業設計。TransArtist(オランダ)で文化政策とAIRネットワ-キングについて研究、アーカスプロジェクト(茨城)ディレクター、コマンドNと共にアーティストの移動のためのポータルサイトMOVE ARTS JAPAN運営、札幌国際芸術祭(SIAF)2014でチーフ・プロジェクトマネージャーを経て、現在は札幌市のAIR施設さっぽろ天神山アートスタジオAIRディレクター。新規AIRのための事業設計、VISUAL ARTS FOCUS with INSTITUT FRANCAIS(フランス)招聘など国内外AIR事業とその背景に関するリサーチ多数。